被相続人が経営していた会社の株式は相続税の対象になります。しかし、法人版の事業承継税制の適用を受けると、会社の後継者は先代から相続した株式について相続税の納税を猶予され、一定の場合には納税を免除されます。その反面、取消事由が発生すると猶予された相続税に加えて利子税も納付しなければならないというデメリットがあります。
法人版の事業承継税制のメリットは?
法人版の事業承継税制とは
法人版の事業承継税制(この税制)とは、後継者が先代から中小企業の経営を引き継ぎ、会社の株式等を贈与又は相続により取得した場合、その株式等にかかる贈与税や相続税の納税を猶予し、一定の場合には納税が免除される制度です。この記事では、相続税に絞って説明します。
この税制には、一般措置と、2027年末までの期間限定の特例措置があります。
一般措置では相続税納税猶予の対象となる株式数が最大で総株式数の3分の2なのに対し、特例措置では全株式が対象となる、一般措置では納税猶予割合が80%なのに対し、特例措置では100%になるなどの違いがあります。そのため、特例措置では、一般措置の適用要件に加えて特例承継計画の提出義務など要件が加重されています。
法人版の事業承継税制のメリット
後継者が相続税の納税を先送りにして、先代から会社の株式を引き継ぐことができるという点がこの税制の最大のメリットになります。また、後継者が死亡した場合、後継者が猶予継続贈与を行った場合、申告期限から5年経過後に会社が破産手続開始決定や特別清算開始命令等を受けた場合など一定の場合には、猶予された相続税の納税が免除されます。
猶予継続贈与とは、後継者(2代目)が、株式を次の後継者(3代目)に贈与し、その後継者(3代目)が納税猶予を受ける場合における贈与をいいます。
法人版の事業承継税制のデメリットは
手続が煩雑なこと
この税制の制度は複雑であり提出する資料や書類が多く、申請手続に手間がかかります。また、適用から5年間は毎年、年次報告書及び継続届出書を、それ以降も納税猶予を継続する場合には3年ごとに継続届出書を提出しなければなりません。これらの報告書等に必要な書類は、申請時の書類とほぼ同じなので、煩雑な手続が納税が猶予されている限り継続するということになります。
都道府県によって、資料や書類の量や種類にばらつきがあり、手続の煩雑さが異なるようなので、会社の主たる事業所のある都道府県に確認してみるとよいでしょう。
認定取消のリスク
一旦相続税の納税が猶予されても、継続届出書や年次報告書の提出を怠った場合や下記の事由が発生すると、認定が取り消され、猶予された相続税の一部又は全額に加え、それにかかる利子税も納付しなくてはならなくなります。
取消事由
相続税の申告期限後5年以内に、後継者が会社の代表者でなくなった、後継者が筆頭株主でなくなった、会社が上場会社、風俗営業会社、資産管理会社に該当した、後継者が猶予対象株式を処分した、会社が5年経過した時点で雇用の8割以上を維持していないなどの場合に認定が取消されます。
また、申告期限後5年経過後、資産管理会社に該当した、株式を処分したなどの場合にも認定が取消されます。
資産管理会社とは
資産管理会社には、資産保有型会社と資産運用型会社があります。資産保有型会社とは、自社で使用しない不動産や現預金などの保有割合が総資産総額の70%以上を占める会社です。また、資産運用型会社とは、これらの資産の運用収入が総収入額の75%以上を占める会社です。ただし、5人以上の従業員がいるなどの一定の要件を満たした場合には事業実態があるとして、資産管理会社には該当しないとされています。
法人版の事業承継税制の適用要件は(会社、先代、後継者)
納税猶予を受けるためには、都道府県知事の認定を受けた上、納税を猶予される相続税と利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。
以下、一般措置の認定を受けるための主な要件を記載しておきます。
会社の要件
会社が中小企業者であること、上場会社、風俗営業会社、資産管理会社でないこと、常時、従業員が1人以上いることなどが必要です。
中小企業者とは、下記の業種分類に従い、資本金額又は従業員数の要件のいずれかを満たす会社です。
業種分類 | 資本金額 | 従業員数 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 ゴム製品製造業(一部を除く)の場合は900人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
ソフトウエア業・情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
その他サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 旅館業の場合は200人以下 |
先代経営者の要件
先代が会社の代表者であったこと、相続開始の直前において、本人と親族などで総議決権の過半数を保有しており、かつ、これらの者の中で筆頭株主であったことなどが必要です。
後継者の要件
後継者が相続開始時において、本人と親族などで総議決権の過半数を保有していること、これらの者の中で筆頭株主であること、後継者が2~3人の場合は、総議決権数の10%以上の議決権を保有していること、相続開始の直前において役員であり、相続開始日の翌日から5か月後まで継続して会社の代表者であることなどが必要です。
法人版の事業承継税制の特例承継計画とは
特例承継計画の要件
特例措置の適用を受けるためには、上記の一般措置の要件に加え、2023年3月31日までに特例承継計画を都道府県に提出し、かつ、2027年末までに相続が発生し、納税猶予の申請が行われなければなりません。相続が開始したときに特例承継計画が未提出であっても、2023年3月31日までに納税猶予の申請に添付して提出すれば、特例措置の適用を受けることができます。
なお、申告期限後5年間、雇用の8割以上を維持するとの要件は特例措置では実質的に廃止されています。
特例承継計画の記載内容
特例承継計画には、後継者名や事業承継の予定時期、承継までの経営見通しや承継後5年間の事業計画等に加え、認定経営革新等支援機関による指導や助言の内容を記載する必要があります。