配偶者の税額軽減と期限後申告、二次相続の関係について

配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減を適用すると、一定額を限度として配偶者の相続税が非課税になります。しかし、一次相続でこの税額軽減を適用するために配偶者に多くの遺産を配分すると、かえって二次相続の相続税が増えてしまい、全体として相続税の負担が重くなる場合があるので、二次相続まで考慮した上で配偶者への配分額を決定することをお勧めします。

目次

配偶者の相続税がゼロになる税額軽減とは

配偶者の相続税がゼロになる税額軽減とは、被相続人の配偶者(戸籍上の配偶者)が取得した遺産のうち、1億6000万円又は配偶者の法定相続分のいずれか高い方の額を限度として配偶者に相続税が課税されないという制度です。

配偶者の法定相続分は、法定相続人が配偶者だけの場合は遺産の全部、配偶者の他に子、孫等がいる場合は遺産の2分の1、親、祖父母等がいる場合は3分の2、兄弟姉妹、甥姪がいる場合は4分の3です。

配偶者の税額軽減の注意点は

無申告や期限後申告では適用できない

配偶者の税額軽減を適用すれば相続税がゼロになる場合でも、期限までに遺産分割をして相続税の申告をしなければ、原則通りの相続税が課税されます。期限までに遺産分割ができない場合については4章を参照して下さい。

相続放棄があった場合

相続税は、相続放棄があっても放棄前の法定相続分で計算します。例えば、子供が相続放棄をして配偶者と両親が相続する場合でも、配偶者の法定相続分は3分の2ではなく、2分の1で計算します。

遺産分割前に配偶者死亡の場合

遺産分割が終了する前に被相続人の配偶者が死亡した場合でも、配偶者に遺産を配分して遺産分割を行えば、配偶者の税額軽減を適用することができます。

一部分割の場合

遺産の一部の分割が終了し残りの部分は未分割の場合でも、分割が終了した部分について、配偶者の税額軽減を適用することができます。その後、残りの部分の遺産分割により申告額を超える遺産を取得した場合、配偶者の税額軽減を適用して修正申告をすることができます。

修正申告

修正申告は、原則として税額が増額する場合にしかできません。例外として、配偶者の税額軽減を適用する場合は税額の増額がなくてもできます。例えば、最初の申告で配偶者の税額軽減を適用して相続税額ゼロの申告をした後、一部分割後の残りの遺産分割や申告後に新たに見つかった財産の分割などにより申告額を超える遺産を取得した場合、配偶者の税額軽減を適用して相続税ゼロ(相続税が増額しない)の修正申告をすることができます。というのは、申告をしなければ配偶者の税額軽減が適用できず原則どおりの相続税が課税されてしまうからです。

ただし、税務調査などにより仮装隠蔽していた財産が発覚した場合には、その財産について配偶者の税額軽減を適用することはできません。

配偶者の税額軽減の計算方法は

課税遺産総額

課税対象となる遺産総額は、遺産総額から基礎控除額を差し引いた額です。基礎控除額は3000万円に法定相続人1人につき600万円を加えた額です。例えば、遺産総額が2億円で法定相続人が配偶者と子供2人なら、基礎控除額は4800万円、課税遺産総額は1億5200万円です。

各法定相続人の取得金額

課税遺産を相続分に応じて取得したとした場合の各法定相続人の取得金額は、課税遺産総額に法定相続分を乗じた額(1000円未満切捨)となります。上記の例では、配偶者の取得金額は7600万円、子供2人はそれぞれ3800万円です。

相続税の総額

相続税の総額は、各法定相続人の取得金額に相続税率を乗じ控除額を差し引いた額の合計額になります。上記の例では、配偶者の分が1580万円(税率30%、控除額700万円)、子供の分がそれぞれ560万円(税率20%、控除額200万円)で、総額は2700万円です。

各人の相続税額

各人の相続税額は、相続税の総額を実際の遺産分割の割合で分けた金額になります。配偶者の相続税は、税額軽減を適用すれば、取得額が限度額以下の場合はゼロになり、それを超える分についてのみ課税されます。

上記の例で法定相続分で遺産分割をした場合、配偶者の税額(2700万円の2分の1)は1350万円ですが、法定相続分以下なので税額軽減の適用によりゼロとなり、子供1人の税額(4分の1)は675万円になります。

配偶者の税額軽減と期限後申告

配偶者の税額軽減を利用する場合、申告期限(相続開始から10か月以内)までに遺産分割・申告・納税をするのが原則です。しかし、申告期限までに遺産分割が終わらなくても、配偶者の税額軽減を利用できる場合があります。

そのためには、一旦、申告期限までに法定相続分で分割した場合の相続税額を申告・納税し、同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出します。そして、3年以内に遺産分割をし、配偶者の税額軽減を適用して相続税の更正請求をすれば、納めすぎた税金を返してもらうことができます。

配偶者の税額軽減と二次相続

二次相続の考慮が必要な理由

配偶者への遺産配分ついては、現在の相続(一次相続)だけでなく、将来配偶者が死亡したときの相続(二次相続)まで考慮して決定すべきです。二次相続では、多くの場合、配偶者の税額軽減が使えない上、法定相続人が1人減る分基礎控除額が少なくなるので、課税対象となる財産の割合が高くなります。そのため、配偶者の税額軽減が適用できるからといって一次相続で多くの遺産を配偶者に配分すると、一次相続と二次相続を全体としてみたときに相続税額が高額になる場合があります。

上記の例の場合

上記の例で、一次相続は法定相続分で遺産分割をし、配偶者が取得した1億円をそのまま残して死亡した場合、相続税は、一次相続で1350万円、二次相続で770万円(子供2人に等分した場合)、一次相続と二次相続とを合わせると2120万円になります。

これに対し、一次相続で配偶者に税額軽減の上限の1億6000円を分配し、残りを子供2人で等分し、配偶者が1億6000円を残して死亡した場合、相続税は、一次相続では540万円で済みますが、二次相続では2140万円となり、合計2680万円となり、一次相続を法定相続分で分割した場合よりも540万円も高額になります。

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