配偶者居住権には、配偶者短期居住権と配偶者居住権(長期)があります。配偶者短期居住権とは、夫(妻)の死亡により、自宅が第三者の所有になった場合でも、転居の準備期間として一定期間、自宅に住み続けられる権利です。他方、配偶者居住権(長期)とは、夫(妻)の死亡後も、配偶者が生活の拠点として継続して自宅に居住できる権利です。
配偶者の短期居住権
配偶者短期居住権とは、亡くなった方(被相続人)の所有する建物(居住建物)に無償で居住していた配偶者は、被相続人の死亡後も、一定期間(最低6か月間)、居住建物に無償で居住し続けることができるという権利です。
夫(妻)が亡くなり、同居していた自宅が自分以外の所有になった場合、配偶者は、いずれはそこから転居するにしても、準備期間が必要です。この準備期間中は、自宅に住み続けていられるようにしたのが、配偶者短期居住権になります。
居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合(居住建物が配偶者と他の相続人の共有となっている場合)、配偶者短期居住権は、相続開始後6か月間、又は、6か月間に遺産分割が終了しない場合は、その終了の時まで存続します。
上記の場合以外の場合(被相続人が遺言で居住建物を第三者に遺贈した場合など)は、居住建物の所有権を取得した者が配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から6か月間存続します。つまり、居住建物の所有者から配偶者に退去の要求があっても、すぐに退去する必要はなく、そのときから6か月間は居住し続けることができます
この配偶者短期居住権の期間が満了すると、居住建物の所有権を獲得するか、又は所有者と契約して使用権を得ない限り、配偶者は、立ち退かなければならなくなります。
配偶者の(長期)居住権
配偶者居住権(長期)とは、被相続人の所有する建物に無償で居住していた配偶者が、その後も生活の拠点として、居住建物への居住を必要とする場合に、それを可能にする権利をいいます。
例えば、終身の配偶者居住権を取得すれば、自宅の所有権を息子に取得させても、残された配偶者は従前どおり、無償で自宅で生活できることになります。また、配偶者居住権の設定登記をしておくことにより、息子が第三者に自宅を売却した場合でも、配偶者は居住を継続できます。
配偶者居住権を設定するメリット
配偶者居住権を設定することにより、居住建物の所有者と使用者を分け、配偶者の生活保障を諮ることができます。
例えば、相続人が妻と子供一人で、遺産が居住建物(3000万円)と預貯金(3000万円)とし、法定相続分(妻1/2、子供1/2)により遺産分割をするとします。この場合に、妻に居住建物、子供に預貯金を引き継がせると、配偶者は、居住建物に住み続けられる反面、預貯金は取得できず、生活資金に困窮してしまいます。
これに対し、居住建物の所有権を子供に、配偶者居住権を配偶者に取得させれば、妻にも預貯金を分配することができます。配偶者居住権の価値を1500万円とした場合、配偶者居住権に加えて1500万円分の預貯金を配偶者に分配できることになり、妻は、居住建物に居住し続けられる上、1500万円の生活資金を得ることができます。
他方、居住建物の所有権を取得した相続人にもメリットがあります。
上記の例で、居住建物(3000万円)を取得しますが、居住建物は配偶者居住権の負担付きのため、相続税の計算においては、1500万円と評価され、相続税を低額におさえられます。そして、母親が亡くなると、何らの負担のない所有権となり、居住建物の評価額は3000万円になります。しかし、これは、母親から相続するのではありませんから、その差額1500万円は相続税の対象にはなりません。
配偶者居住権を設定するには?
配偶者居住権は、被相続人が生前に遺贈や死因贈与により設定する場合と、死後、相続人の協議により設定する場合があります。
遺贈とは、遺言による贈与のことをいいます。例えば、遺言により、居住建物は長男に相続させるが、配偶者に配偶者居住権を遺贈するとすることにより、配偶者居住権が設定できます。
死因贈与とは、被相続人と配偶者との間で、生前に締結する被相続人の死亡を条件とした贈与契約をいいます。つまり、被相続人の死亡の時点において、居住建物の配偶者居住権を配偶者に贈与するという契約です。
被相続人が遺贈や死因贈与をせずに死亡した場合、相続人による遺産分割協議により、配偶者居住権を設定することができます。
また、配偶者が配偶者居住権の取得を希望しているのに、他の相続人がそれを拒絶している場合には、家庭裁判所に審判を申し立てることにより、配偶者居住権が認められる場合があります。この場合、建物所有者が受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があることが条件となっています。
配偶者居住権の存続期間はいつまでか?
配偶者居住権は、原則として、配偶者の生存期間中は存続します。しかし、設定行為において、存続期間を一定期間に限定することも可能です。
例えば、10年間は、一人で居住建物に居住するが、その後は、長女と同居する予定にしている場合、10年間の配偶者居住権を設定しておくということが可能です。
このように期間を限定した場合、この期間を延長することや更新をすることはできません。もし、配偶者居住権の存続期間の満了後も居住建物に居住し続けたい場合には、居住建物の所有者と、新たに使用貸借契約や賃貸借契約を締結することになります。
配偶者居住権には、被相続人の死亡後の配偶者の生活保障が図れるなどのメリットがあります。他方、被相続人が再婚で先妻との間に子供がいたりする場合や配偶者が当初の予定通り、居住建物に居住しなくなる場合には、かえって不利益が生じる場合もありますので、必要に応じて弁護士などの専門家に相談して、配偶者居住権の設定は慎重に行う必要があります。