相続を行うときに、被相続人が相続人に対して生前に何らかの貢献をしていた場合や、特定の被相続人が相続人から生前に贈与を受けていた場合、法定相続分に従って相続を行うと不公平な相続となってしまう場合があります。今回は、そのような場合に公平な相続とするための寄与分の制度と特別受益の制度について詳しく見ていきます。
寄与分とは何か
ご家族が亡くなり遺産を相続する場合には、通常は遺産分割協議を行い、遺産を分配することになります。遺書等がない場合は、法定相続分に従って分けることが原則となります。
例えば、父親が亡くなり、相続人がその子供3人のみの場合、遺産の相続分はそれぞれ3分の1ずつとなります。それぞれ均等であり、何も問題がないようにも見えますが、3人の子供のうち、長男のみが亡くなった父親の面倒を長年見てきていたとしたらどうでしょうか。長男からすると、親の面倒を見なかった2人の弟と遺産の相続分が同じであることに納得感がないかもしれません。
このように相続人のうち一部の人が、被相続人に対して何らかの貢献をしていた場合、こうした貢献を遺産分割の割合に反映させる制度が民法で規定されています。これを「寄与分」の制度といいます。
具体的には、相続人のうち、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がいる場合において、その相続人について寄与分が認められることとなります。
ただし、実際には寄与分が考慮されるケースは多くないことに注意が必要です。これは、寄与分が認められるためには、上述のとおり「特別の」寄与である必要があり、要件が非常に厳しくなっているためです。ここでいう「特別の」とは、被相続人と相続人の身分関係から通常期待される程度を超える行為とされています。
先程の例で考えてみましょう。長男のみが親の面倒を見ていた場合であっても、歳を取った親の面倒をある程度見ることは法律上当然と解釈されているため、ただ面倒を見ていただけでは、特別な寄与とまでは認めてもらえない可能性が高いです。
「特別の」寄与と認められるには、例えば父親の介護をヘルパーを頼まずに全て自分でやっていた場合や、自分の仕事を辞めて父親の家業を無償で手伝っていた場合などです。このように、家族であっても通常はそこまでできないと思われる程度でなければ、特別の寄与とは認められない可能性が高いのです。
なお、寄与分として認められるのは、被相続人の事業に関する労務の提供である家族従事、被相続人の事業に関する財産上の給付である出資、被相続人の療養介護、被相続人の扶養、被相続人の財産管理の5つです。
寄与分の計算方法は
寄与分がある場合の計算方法は、相続財産からあらかじめ寄与分を控除し、控除した相続財産を法定相続分で計算することとなります。
先程の例で、相続財産が3000万円、長男の寄与分が300万円認められたケースを考えてみましょう。
この場合、長男は(3000−300)×1/3+300=1200万円の相続となり、弟2人はそれぞれ、(3000−300)×1/3=900万円の相続となります。
特別受益とは何か
先程の例では、生前に被相続人が相続人に対して何らかの貢献をしていた場合を見てきましたが、被相続人が相続人に生前に贈与を受けていた場合を見ていきます。
仮に、生前に何らかの贈与を受けていた相続人がいた場合、法定相続分どおりに相続分を計算してしまうと、生前に贈与を受けていない相続人にとっては不公平な相続となります。
例えば、父親が亡くなり、相続人がその子供3人のみ、相続財産は900万円、長男のみが生前に150万円の贈与を受けていた場合を考えてみましょう。遺産の相続分はそれぞれ3分の1ずつとなるので300万円ずつとなりますが、長男は生前の贈与を合わせると450万円相続したとも考えられるため、不公平は相続となってしまうのです。
このような不公平は相続を是正する規定についても民法で規定されており、上記の例でいう150万円の部分を特別受益といいます。
特別受益の対象となるものは、遺贈、学費、贈与、土地及び建物の無償使用、扶養義務の範囲を超えた生活費の援助の5つです。
特別受益の計算方法は
特別受益が存在する場合の計算方法は、相続財産に贈与額を加算した上で法定相続分で計算します。特別受益を受けていた相続人については、上記で算定された金額から、贈与額を控除した金額が相続分となります。
先程の例で、相続財産が900万円、長男の特別受益分が150万円と判定されたケースを考えてみましょう。
この場合、長男は(900+150)×1/3-150=200万円の相続となり、弟2人はそれぞれ、(900+150)×1/3=350万円の相続となります。この結果、生前の贈与を合わせるとそれぞれ350万円ずつの相続となっており、公平な相続に是正されます。
特別受益の持ち戻しとは
ある相続人に特別受益がある場合、それらを計算に考慮することで公平な相続となるように是正することができます。これを特別受益の持ち戻しといいます。
しかし、被相続人が生前にある相続人に贈与していた場合、贈与した相続人に対して貢献を認めての贈与であるなど、特別の意思がある場合においてはどうなるでしょうか。そもそも特別受益の持ち戻しは、相続人の相続を公平に行う観点から設計された制度です。そのため、このような場合でも特別受益の持ち戻しが行われると、かえって不公平な相続にもなりえてしまいます。
そのため、被相続人が特別受益部分については相続財産に含めないという意思表示を遺言などで行なっていた場合は、特別受益部分を計算に考慮しないこともできます。これを持ち戻しの免除といいます。